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EUのサービス産業の振興政策
EUでは、域内のサービス産業が他国へ進出する際に直面する「産業障壁」を取り除くことを目的とした「サービス指令」を発表しました。「産業障壁」とは、法律、規制、手続き、または言語や文化の違いなど、他国での事業展開を妨げる要因を指します。この指令は特に法的・行政的な障壁を対象にしています。
この指令では、サービス産業が他国に進出する際に必要な手続きを、EU加盟国間で合意した標準レベルまで簡素化することを義務付けています。また、「設立の承認」については、進出するサービス企業に対し無差別の原則を適用することが求められています。これは、現地での設立手続きにおいて、国籍や出身国による差別があってはならないという基本的な方針を示しています。「無差別の原則」とは、企業がどの国から来たかにかかわらず、同じ条件で事業を始めることができるという理念を表します。この原則はEUの基本的な自由である「サービスの自由」に基づいています。
この「サービス指令」による影響として、EU域内の貿易量が増加し、投資がさらに拡大することが予想されています。具体的には、加盟国間の障壁が低くなることで、中小企業にも域内の他国市場への参入機会が広がると考えられます。また、サービス産業におけるイノベーションが促進され、業界全体に良い影響をもたらすことが期待されています。従来、大企業に比べて資本力やリソースが限られていた中小企業は他国市場への参入が難しいとされていました。しかし、手続きの簡素化や共通基準の導入により、中小企業の機会拡大が実現すれば、中小企業にも競争の場が広がると期待されています。
しかし、この指令には課題も指摘されています。製造業が域内競争の激化による困難を経験したように、サービス業も同様の問題に直面するのではないかという懸念があります。具体的には、競争が激化することで、域内の企業が他国の低コスト事業者との価格競争にさらされる可能性があるのです。その結果、競争力を失った企業の閉鎖や、従業員の雇用喪失といった問題が発生する可能性があります。競争の激化がサービス業界全体にとって必ずしも良い結果をもたらすわけではありません。特に、労働集約型の業種や価格競争が激しい分野では、域内外の低コスト事業者が優位に立つ可能性があります。
さらに、域内競争の激化は、特定の地域で雇用環境を悪化させるリスクも含んでいます。特に、地域によってはサービス業が主要産業である場合、経済的な影響が深刻化する可能性が懸念されています。
このように「サービス指令」は、EUの経済統合をさらに進める重要な施策であり、期待と懸念の両面を持つ政策です。その実現が、域内経済にどのような影響を与えるかは、今後の実施状況と各国の対応に大きく左右されるでしょう。
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